期待される効果は
認知症患者は、2025年までには約700万人前後にまで増えると考えられています。高齢化とともに認知症患者が増え続けている中、対策のひとつとして注目されているのが「回想法」です。回想法を用いて過去を振り返る事は、認知症患者だけでなく介護を必要とする高齢者が生きる気力を取り戻すきっかけとなります。多くの場面で回想法の効果が確認されており、認知症の進行抑制や認知症予防だけでなく介護ケアや介護予防にも活用されています。
回想法の効果とは
認知症になると、自分が置かれている状況がわからず不安な気持ちになります。家族や友人を見てもそれと認識できず、自分が何者なのか見失ってしまいます。しかし、回想法によって過去の人生を追体験することで、自分の存在を再確認し安心感を取り戻すことができます。認知症の症状によって現在と過去の記憶が混在し、自分の年齢や季節もわからなくなってきたとき、過去の記憶を現在に向かって順番にたどっていくことで時間感覚を取り戻すこともあります。
認知症は徐々に進行していくものなので、自分が認知症であるとの自覚を持って生きなければならない期間が生じます。少し前までできたことができなくなり、失敗が多くなってくると、自信を失うとともに今後どうなるのかという不安や恐怖を抱えてしまうものです。しかし、回想法によって自分が自分らしく生きていた記憶を呼び起こすことで、自信を取り戻して負の感情をやわらげることができます。コミュニケーションを深める手段としても、回想法はとても優れた方法です。昔の思い出を語り合うことは、高齢者にとってとても楽しいものです。同じ時代を生きてきた仲間との交流は、共感から大きな満足を得る大切な時間になるでしょう。異なる世代の人に過去の経験を話すことも、高齢者が自尊心を持ち直すきっかけになります。回想法を取り入れることで不安や混乱が抑えられるようになると、その人本来の良い部分が現れやすくなります。心の中の不安や混乱が原因でコミュニケーションがうまくとれていなかった認知症の高齢者が、回想法によって良い人間関係を取り戻すこともあります。
高齢者が活躍できる社会を目指す
高齢者の経験は、後の世代にとって貴重な宝です。今のように情報が溢れていない時代を生き抜いてきた人々には、探せばすぐに答えが見つかる今の時代では身につきにくい知恵や思考力があります。老いてできることが少なくなると、生きていても意味がないと感じて塞いでしまう人もいますが、経験から得た知恵を伝えることは立派な社会貢献です。回想法を介護ケアに取り入れていくことは、介護を受ける高齢者だけでなく社会全体の利益につながることなのです。
回想法を詳しく学びたい人へ
介護職が回想法を実施する場合、正しい知識を身につけておく必要があります。特に注意すべきなのは、実施者の思い込みや偏見が入った自己流の回想法にしないことです。高齢者すべてが同じ価値観や感じ方をするわけではなく、昔のものを見たり聴いたりして懐かしいと思えるかどうかは個人差があります。介護職が回想法に関する正しい知識を身につけるのに役立つのが、「心療回想士」や「認知症ライフパートナー」などの民間資格です。